世の中、IOTという言葉があふれている。直訳するとモノのインターネットという。言葉だけでは意味不明だが、あらゆるものがインターネットに接続している状態のことであるらしい。つまり、言い換えるとあらゆるものを計測・測定している状態であり、それをウェブ上で確認できるようにするということである。
そして弊社でもようやくIOTがホニャララというような動きになってきている。またIOTとは何なのかという記事や、IOTをビジネスアイデアに落とし込むことが大事といった記事は見られるが、それが製造業として生産ラインにどのように影響するのか、生産ラインがどのような姿になるのかについて記述している記事はないように思う。そこで、今回はまず、IOTとは何なのかということを調べた結果をまとめ、その後、実際にセンサを用いて測定した経験を持つので、測定に対する問題点とどのような手順を踏んで測定する必要があるのか、そして測定の方法を踏まえたうえでどのような生産ライン(工場)になっていくのかについて記述していく。
IOTとは
IOTを構成する要素として、3つの構成要素があると考える。それは、
- 測定(計測)して
- 解析する
- それをもとに解決策やアイデアを出す
ということであり、研究開発だけでなく、どの仕事でも何かを改善するために必要なステップである。
この中で、測定については、測定するための道具、測定したデータを送信するための道具、そして、測定結果を映し出す画面(ソフト)が必要である。これらは、IOTで必要なものを具体的に述べるとセンサ、配線+データロガ―(無線で通信もできる)、データ処理ソフトである。そして、モノを計測した結果を映し出した処理ソフト画面をウェブ上にあげれば、測定の部分は完成である。この後、統計学等を用いてデータを解析して、データの特徴を見出して、問題であれば解決策を出し、何かアイデアを出す必要があればアイデア出しを行う。
実際に測定したことがある経験から言えること
私が実際に使用したことがあるセンサは、加速度センサやひずみゲージ、温度センサなどである。実際に加速度センサで測定するときに困ったことは、ロガ―にノイズが乗るということなどの測定自体の不具合を除けば、機械の内部構造が変化すると(ちょっと変えるだけで)同じ入力を与えて同じ場所にセンサを張っていても違う結果(出力)が得られてしまうということである。例えば身の回りにあるもので説明すると、机にゴム板を敷いたら振動がなくなると思う。このように、構造に少し手を入れることや、同じ形状でも材料を変化させると振動が変化してしまうのである。これらはひずみゲージでも温度センサでも同様のことが言える。
つまり、
同じ構造(形状+材質)を持つものでなければ、同じ結果にならない※
ということである。
上記の考えは個人的に非常に大切なものであると考えている。この考えから生産ラインがどのようになるのか、また、測定のとき、どのように対応すればよいのかがわかるからである。以下に、それらを記述していく。
※:違う形状でも、例えば物がいつ壊れるかなどについては、応力という概念が開発されているので、予測できる。例えば、直径1㎝の鉄棒と直径1mの鉄棒でも、応力を用いることで、どのような力を加えたら破壊するかを予測可能である。しかし、温度センサを用いた複雑な機械構造の熱膨張予測や、振動の伝達・大きさなどは明らかにできない(正確にいえば、設計ソフトで固有振動数などは解析できる)。
製造業(生産ライン)にIOTを導入する理由と生産ラインがどのようになっていくか
少し話がそれるが、昨年にJIMTOF(日本国際工作機械見本市)に参加した際、どこのメーカもIOT祭りであった(あとは3Dプリンター祭り)。しかも、どこのメーカも上記で述べた、工作機械+センサ+ロガ―+処理ソフト(自社製)のセットで、売り込んでいた。ソフトを自社製にすることで、囲い込みを行おうという目論見であるが、各社、軸にトルクセンサーをつけ、また、ある場所に温度センサを付けて・・・といった同じことを機種ごとに1つ1つセンサの貼り付け場所を変えて行っていた。
トルクセンサーの役割は通常時から変化がある場合、異常が起こって、製品ができない(欠陥品)といったことが明らかにできること、温度センサについては、機械の熱膨張による製品精度ズレ値をあらかじめ機械に入力しておき、その温度になったときにフィードバック制御を行うことで、より高精度化できることをアピールしていた。
これらを製造業でのIOTの事例として示したが、ここまでの話で2つ、抑えておかなければならない重大事項が明らかになっている。
1つ目は生産現場においてIOTを行う目的であり、それは2つあると考える(もちろん、生産現場や製造業に限定しなければ、ほかにもいろいろあるだろうがここでは限定して話すことにする)。
それは、不良(故障)予兆診断と製品精度向上の2つである。
まず不良予兆診断についてであるが、製造業において、製品製作後の製品の検査には全数検査と抜き取り検査の2つの検査方法がある。しかし、これらはどちらの検査にしても実際に製品の何か(形状、強度、寸法等)を測定する必要が出てきて、非常に時間がかかる。もちろん、製品が合格か不合格を決める大切な工程であるが、これらを製品製造時に明確化できれば、こんなに楽なことはないだろう。これらが、JIMTOFの話で言えばトルクセンサーにあたる。製造ラインに貼り付けたセンサが反応したら不良品であるということがわかれば、検査が省けるはずである。もちろん、それと同様に、製造装置の故障予兆診断もあり、設備や金型が壊れてからわかると復旧に時間がかかる(今現在は壊れないとわからない)ので、事前にわかればそれらの時間とコストも削減できるだろう。このように製造不良と設備不良を予兆診断するために製造業(生産ライン)ではIOTを用いようとしているのである。
もう一つの製品精度向上については、切削加工やプレス加工において(切削加工とは削る加工、プレス加工は押しつぶす加工)、製造設備の熱膨張という問題や、チップや型がすり減って精度が出なくなるなどの問題が実際の現場では起こっている。実際の製品精度はこれらを加味して公差というものが設けられているし、公差を無理に小さくすると製作するのが難しくなり、製品コストに跳ね返ってくるという問題もある。では、精度向上すれば何が良くなるのかというと、まず、今まで安い加工方法では精度が出せなくて高い加工をしていたものが安くできることがメリットにあげられるだろう。つまり、製品精度が向上すれば、安い加工方法に置換できるのである。もう一つのメリットは、機械のガタが少なくなるので、製品の(平均)性能が向上することが考えられる。実際に自動車では、エンジン部品の径公差などを量産規格より精度よく合わせると燃費や走行性能が上がることが知られている。上記した自動車以外にもパソコンや家電製品で実際に購入して当たり外れがあることは日々感じていることだと思うが、これが発生するのも製造時の精度の問題である(今回は寸法を例に挙げたが、材料のばらつきなども当たりはずれに含まれる)。
重大事項の二つ目は、上記の測定した経験~にも書いていて内容がかぶるが、同じものにしか適用できないということである。つまり、機械が異なれば異なる数だけの条件だしを行う必要があるということである。なぜなら、機械の構造によって振動や温度などは変化するからである。極論を言えば100個の異なった機械を使って製品を製作している部品がある場合、100個の機械のどこをどのように測定して、どのようなデータが得られれば、不良品が検出できる、またはフィードバック制御して精度向上するというものを明らかにしなければならなく、これは非常に大きな手間が発生することが予測できる(実際は仕上げ加工マシンのみにするなどの対策があるだろうが、それでも製品が異なるたび、機械のタイプが異なるたびに条件だしを行う必要が出てくるだろう)。このように、IOTを生産ラインに適用するには、機械が異なるたびにその機械の基準値と異常値を明らかにしなければならないというデメリットが存在することになる。
ではこのデメリットを踏まえ、生産ラインはどのような形に収束していくだろうか。
私は一言で言えば生産ラインの均一化が起こると考える。
つまり、全く同じコピーライン(機械だけでなく、製品を運ぶベルトコンベアの骨格や材質等、本当にすべてが同じ)が増えるのである。これが増えれば増えるほど、IOTを行うために行った各機械の基準値と異常値を明らかにするコストが下がるからである。
また、実際に測定をしたことがないと思われる人間が書いたIOTの解説記事(コンサル等)などでは、測定はやればできると簡単に考えているようなふしがあると私は感じているが、生産ラインで不良発見や精度向上などを行うことは非常に困難であると考えている。
なぜなら、測る場所は適当にどこでもよいわけでないからであり、また、機械というのは非常に大きいからである。極論すると測定箇所が無限にあり、そこから正解を見つける必要があるということである。
では、今現在では適用できないのかというとそうではなく、IOTが向いている企業や製造工程も存在する。
それはこれからも同じ製品をほぼ必ず作り続ける企業であったり、製造工程は不変である工程であれば、手間をかけてIOT化してもメリットを受けることができる。
前者であれば、味の素など10年後も同じ製品を作り続けていると思われるので、IOT化してもメリットを享受できると考える。また、後者であれば、ペットボトルや缶に飲料水(酒)を入れる工程や、ペットボトル容器内部にコーティングする(飲料の酸化を防ぐ+炭酸であればガスが抜けるのを防ぐ)等、ある程度、商品が規格化されたものであれば製造工程としてみればほとんど同じであるのでメリットを受けやすいだろう。
もちろん、製品としては規格化して同じものを製造したくなるだろうし(もともとコストだけみても同じものを製造するほうがもちろんよい)、これに関しては自動車業界が現在活発であり、共通骨格化に向けて各社取り組んでいる。
まとめ
IOT(主に生産ラインに対して)について述べた。IOTには構成要素が3つあり、それぞれ、計測、解析、対策やアイデアを出すの3つがある。生産ラインのIOT化のメリットは不良(故障)予兆診断と製品精度向上が行えることであり、デメリットはIOT化するための基準値と異常値の明確化が非常に大変であること、そして、それは同じ構造(形状+材質)を持つものでなければ適用が難しいことである。これらから生産ラインは均一化とコピーラインが増えることが考えられる。また、IOTに向いているものは同じものを作り続けること(味の素等)や違うものでも製造工程が同じもの(ペットボトルに飲料水を入れる工程等)が考えられる。また、IOTを一層活用するためには、各種製品の規格化が必要であり、現在の自動車業界みたいなことが各工業製品で起こると考える。